見慣れない箱

5/9
前へ
/119ページ
次へ
「自意識過剰にも程がある。いい?よく聞きなさいよ?私は旦那を愛してるの。貴方になんか興味もないし、何とも思ってない。はっきり言って迷惑なの。分かったら消えて」 恭子は早口で言った。 「分かった……今日は諦めるよ。明日になったら考えも変わるかもしれないからね」 政信は言うと、その場から立ち去った。 どれだけ、ポジティブなのだろうか。 ある意味尊敬出来るかも。 恭子は呆れながらも思った。 「行こう」 恭子は言って、清美を見た。 清美は、政信の後姿を見つめたまま動かない。 「清美?行くよ?」 もう一度呼び掛けて見るが、清美は反応を示さなかった。 まさか! 駄目、駄目。 政信だけは絶対に駄目。 恭子は清美の腕を引っ張った。 「彼は駄目よ。騙されちゃ駄目。ろくな男じゃないからね。あの男は止めときなさい」 恭子は言った。 「私……別に何とも思ってないよ」 清美は言ったが、一瞬自分から目を逸したのを、恭子は見逃さなかった。 「嘘は駄目。彼だけは止めて。お願い」 恭子は清美の手を握り締めた。 「分かった」 清美は頷いた。 「騙されちゃ駄目だからね?」 恭子は、もう一度、確かめるように言った。 「分かってるって。もう行こう」 清美は言って歩き出した。 恭子もその後を追い歩き出した。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加