風の章

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あたしのパパは、いわゆるエリートだ。 一流の大学を卒業し、都市銀行に勤めている。 少しタレ目だけど顔だって悪くない。 たぶん若い頃は女の子にもてたはずだ。 それなのにパパは、幼なじみで知的障害者のママと結婚した。 周囲の反対は半端じゃなかったと聞いている。 あたしは祖父母の顔を知らない。 二人が結婚したせいで両家の親族とは絶縁状態になってしまったようだ。 なぜパパはママと結婚したのだろう。 きっと幻を見たんだ。 「俺がこいつを守ってやらなくちゃ」とか、臭いセリフを自分に言い聞かせて、幻を愛だ恋だと勘違いしたのだろう。 幻の恋が現実の生活に戻ったとき、パパは後悔したんじゃないだろうか。 毎日、夜遅くまで仕事をして、ほとんど眠る間もなく朝が来て、ママの代わりに掃除、洗濯、食事の用意。 パパの人生っていったいなんなんだろうね? 後悔すればいいんだ。 自分の過ちに気づいて。 一生後悔しながら生きていけ。 あたしはパパが許せないんだよ。 ねえ、だって ママはどうしてあたしを産んだのよ? 親の性交なんて想像するのも、おぞましい。 考えなくて済むものなら考えたくない。 だけど。 あたしは考えずにはいられない。 どうしてパパはママとセックスなで見れたの? 気持ち悪い。 汚らわしいよ。 パパも ママも あたしも 幻とねじ曲がった性欲の産物。 それが、このあたしなのだ。
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