海の章

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海の章

家に帰ると、ママがままごとセットで遊んでいた。 あたしが小さな頃に使っていた古いおもちゃだ。 どこから出してきたのだろう。 ずいぶんホコリを被って黒ずんでいる。 「みいちゃんおかえりー」 ママはそう言ってあたしにまとわりついて来た。 「こんなもの、どこから出してきたのよ」 あたしはおもちゃのフライパンを取り上げて、きつい口調でママに言った。 「押し入れにあったのよ」 そう言ってママは満面の笑みであたしを見つめる。 「こんな汚いおもちゃで遊んじゃダメ。手が真っ黒じゃん」 あたしが叱るとママは困ったように目をきょときょとさせた。 「でも、みいちゃんの大好きなカレー作って待ってたんだよ」 ママは切り刻んだ新聞紙を指差して言う。 「もう、いいから。石鹸で手を洗ってテレビでも見てなよ」 あたしはそう言ってママに背を向けた。 「みいちゃんも一緒にテレビ見ようよ」 後ろからママの声がした。 「あたし、忙しいから」 あたしは振り返りもせず、階段をのぼって自分の部屋へ向かった。
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