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厚い暗雲に覆われ、鎖のような雷が低く鳴り響く雷鳴とともに、蒼白い光を発していた。
酷く降り続く豪雨の中、一人の青年が重々しい鎧を引き摺るようにして歩きながら、古びた廃虚となった神殿に骨を休めるために中へと足を踏み込む。
「酷いな……」
小さく呟いた青年の言葉は、外でまるで巨大な台風が訪れたかのように荒れる気候に対してではなく、近寄り難い空気を発し出す神殿の風景への言葉だった。
壁にはひびが入り、神殿を支える柱にはツルが束縛するかのように巻き付いている。
ゆっくりと脚を神殿の奥に運ぶ青年は、神に祈りを捧げる女神像を静かに見上げた。
どこか儚く哀しそうな表情を見せる女神像。
その直後だった。
「ぅ……」
「……!」
何処からともなく耳に届いた小さな掠れるような声に、青年は眉間に皺を寄せ、腰に下げていた剣に手をかける。
一歩、また一歩とその声のした方へと歩み寄った。
瞬間、樹の裂けるような轟音とともに、声の主の姿が照らされる。燃えるように赤い髪に幼い顔付き、片目から血を流した傷付いた少年は、朦朧と開いた紅蓮のような瞳で青年を静かに見つめた。
――それは酷く冷たい眼をした少年だった
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