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奥からやって来た産婆は、血相をかえて近藤を呼んだ。
「どどどど、どうした!?」
「クックックッ」
普段の近藤から見られない慌て振りに、沖田は腹を抱えた。
「とにかく、こちらへ」
そう言い終わらずに、産婆は近藤の手を掴み奥の部屋へ連れて行った。
「あっはっはっはっ」
近藤がいなくなると、沖田は声を出して笑い始めた。
「総司」
その声に沖田はハッとした。ゆっくり、後ろを振り向く。
「何だ。土方さんか」
「何だとは、何だ」
日差しの影と重なるように立っていた長身の男は、物静かな口調で答えた。
彼の名は土方歳三。武蔵国多摩郡石田村の出で、10人兄弟の末っ子として生まれた。幼い頃に奉公に出て、10年して帰ってくると、「石田散薬」と薬を売り歩きながら、各地の道場で修行していた。
ある日、土方は日野の道場に出稽古で来ていた近藤に出会い意気投合し、安政2年(1859年)、正式に天然理心流に入門した。
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