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「ふぅ、まぁ、今日も頑張ろうかね」
そう呟き、洗面台の前に立つ。蛇口を捻り、流れてくる水を手ですくい、顔にかける。
少年は何回もその動作を繰り返し、蛇口を反対方向に捻り、水を止めた。
近くに掛けてある真新しいタオルで顔を拭き、洗面台に取り付けてある大きい鏡を見た。
自分でも綺麗だと思えるほどの銀髪が、今日も肩口辺りまである。手入れをせずにここまでになるとは、自分でも思っていなかった。
フゥと一息つき、頬を叩く。パチンと小気味いい音が響く。
そして、少年が洗面所を出て、自室に戻り、制服に着替えようとしたその時。
「おっはよう、アルゼ! 速く学校に行こう! 遅刻しちゃうよ!」
女の人の声が玄関の方から発せられた。
アルゼと呼ばれた少年は、あからさまに嫌な顔をして、時計に眼をやる。
声の通り、遅刻する時間帯であった。ハァとため息をつき、アルゼが叫ぶ。
「わかった! そこで待っててくれ! いますぐ用意する!」
急いで寝間着を脱ぎ、黒を基調とした制服を着る。時間がかかるネクタイなんかは右手に持ち、学校指定のカバンを左腕に抱え、アルゼは家を飛び出した。
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