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意思を曲げない奴に、俺の怒りが増幅していく。一秒ごとに、凄まじい勢いで。
俺は魔法剣を下段で構え、すぐにでも斬りかかれる準備をする。
奴がサティを見逃さないとすれば、奴を倒すしか道はない。それがたとえ、奴と相討ちになっとしてもだ。
「もう言葉はいらない。俺かあんた。どっちかが勝つ。それだけだ」
柄を握る掌から、汗が吹き出す。腕全体が強張り、唇が乾く。
全てを投げ出し、未来も閉ざされるかもしれない戦いに身を投じたのは、俺自身だ。サティを護るために、こんな俺でも、機妖の脅威から少しでも人々を助けるために。
『うむ、もう言葉はいらないだろう。所詮、我とお前は相容れぬ存在。ならば、我は全力を持って、お前を排除する』
機械で覆われた手の隙間から、見るだけでよく切れそうな鉤爪を出した。
奴は本気だ。そして、俺も本気を出す。
できれば、もう一度だけ、あの愛しい声を聞きたい。
「…………アルゼ……」
願いが通じたのかどうかは定かではないが、震える声でサティが俺の名前を呟いた。
我ながら現金なやつだと思う。その声だけで、腕の強張りは解け、視界はクリアになり、集中力はこの戦い最大になった。
俺は奴に向かって駆ける。運命に抗うために、奴を倒すために。
そして、漆黒の闇に、擬似的な太陽のような光が輝いた。
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