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今にも折れてしまいそうな細身の身体、しかし全身を纏う王としての雰囲気に気圧される者も少なく無いだろう。
そればかりで無く、一目見たら決して忘れる事の無い美しく整えられた顔立ち。
どんな災い事が起きようとも目が離せなくなる。
悪魔が衛兵達とじゃれ合っている間も、俺はずっとメルシアを見つめていた。
何か言葉に出そうとしても何も言えなかった。
そんな俺にメルシアはくすりと笑みを零し、優しい声音で話し掛けてきた。
『そんなに緊張しなくても大丈夫よ。あなた達の事を教えて?』
緊張――?
気づけば拳をきつく握り、手には汗をかいている。
息を吸う事も忘れていたのか、メルシアの声をきっかけにゆっくり深呼吸すると、肺に負担をかけていたものがするりと抜けていった。
ここで改めて思う。
こういう状態を緊張していると言うのか。
俺はたかが人間の女に緊張していたのか。
そして、緊張させられるほどの相手に、俺は相手になる事ができるのか。
まだ生まれてから十と数年。
自分が持つ王としての威厳よりもメルシアの方が遥かに上回っていたのだ。
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