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その時は何も言わずにその場から立ち去った。
悪魔の首根っこを掴んで捕えようとする衛兵達に向けて、自分の持つ力を放つ。
誰もが恐れ戦く中、さすがのメルシアも身体の変化に驚くしかなかっただろう。
その表情を見ても満足はしない。それくらいしかできなかった。
対等に渡り合いたくて見せびらかした力も、ただ逃げ出すための時間稼ぎでしかない。
結局、俺は逃げたのだ。
逃げたという思いは、次にメルシアに会うための足枷にもなった。
それでも必要だと思ったのは、時間だ。
メルシアに相応しいまでの、成長を遂げなければ――。
ああ……知らなかったさ。
人間界と死後の世界では、時間軸が異なっている事など……。
時間なんてもの、死後の世界では無に等しい。
それでも俺が二度目に人間界へ訪れるまでに要した時間は、約10年の歳月。
それが人間界では既に数百年もの時が流れていたのだ。
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