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時は夕刻――。
空が赤橙の色に染まっている。
その赤橙の中をゆっくりと流れる雲も黄金色。
誰かが作り上げた芸術品と見紛うほどの美しさだった。
冥界の空を覆う緋色と違って、人間界の空は気持ちを落ち着かせてくれる。
それは一日の終わりを告げるものだからだろうか。
それとも……。
死後の世界に太陽が無い分、死後の世界の住人は明るく眩しい場所を苦手とするから、近づく闇に安心感を覚えているのか。
――克服してやるさ、これくらい。
渡り廊下から覗ける外の風景を眺めながら、俺は挑むような気持ちでそんな事を思った。
そして、その日が二度目の人間界に降りた日だ。
渡り廊下は一直線に長く、両端には中庭が見える。
中庭に足を踏み出そうとすれば、そこには透明な壁があるようで金色の光が昇天していく。
何者かが近づけば反応するようにしてあるらしい。
こんな高度な術を施す事のできる者といえば、悪魔しかいない。
大方、邪心溢れる気持ちでこんな事をしたのだろう。
全くどうしようもない奴だ……と呆れながら俺は背後を振り返った。
右から左へ大きく首を動かし、その様子を黙って見守る。
周りには数人の衛兵らしき者達が、剣の切っ先を俺に向けて構えていた。
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