約束

13/45
345人が本棚に入れています
本棚に追加
/658ページ
 時は夕刻――。  空が赤橙の色に染まっている。  その赤橙の中をゆっくりと流れる雲も黄金色。  誰かが作り上げた芸術品と見紛うほどの美しさだった。  冥界の空を覆う緋色と違って、人間界の空は気持ちを落ち着かせてくれる。  それは一日の終わりを告げるものだからだろうか。  それとも……。  死後の世界に太陽が無い分、死後の世界の住人は明るく眩しい場所を苦手とするから、近づく闇に安心感を覚えているのか。  ――克服してやるさ、これくらい。  渡り廊下から覗ける外の風景を眺めながら、俺は挑むような気持ちでそんな事を思った。  そして、その日が二度目の人間界に降りた日だ。  渡り廊下は一直線に長く、両端には中庭が見える。  中庭に足を踏み出そうとすれば、そこには透明な壁があるようで金色の光が昇天していく。  何者かが近づけば反応するようにしてあるらしい。  こんな高度な術を施す事のできる者といえば、悪魔しかいない。  大方、邪心溢れる気持ちでこんな事をしたのだろう。  全くどうしようもない奴だ……と呆れながら俺は背後を振り返った。  右から左へ大きく首を動かし、その様子を黙って見守る。  周りには数人の衛兵らしき者達が、剣の切っ先を俺に向けて構えていた。
/658ページ

最初のコメントを投稿しよう!