345人が本棚に入れています
本棚に追加
本当に、この女がメルシアなのか……?
こんな状態ではあるが、メルシアに会えるという嬉しさも少なからず持っていた。
その少なからずの嬉しさが熱を引いたように薄れていく。そればかりか、奇妙な感覚さえ生み出したような気がした。
足元まで届きそうな艶やかな黒髪と、繊細なイメージを持つ端正な顔立ちは、10年前に見たメルシアに相違無かった。
が。
こうして同一人物であるように見えて、別人に思えてしまうその理由。
この女性。いや、この女は……。
少しだけ顎を上げ、丸く縁取られた黒の瞳をやや下に下げ、強烈なまでに悪印象を与える冷徹の如く双眸で、この俺を見下していた。
冷たい氷をさらに雪で包み込むような冷たさ。
その態度は俺と女の間に置かれた立場を表している。
俺は迷う事なく立ち上がった。
重力なんてそんなもの無視どころの話ではない。
許されるはずが無いだろう。
この俺を見下す?
見下していいのは、俺より背の高い奴らだけだ。
最初のコメントを投稿しよう!