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泣き顔を見られたくないらしいメルシアは必死に涙を拭っている。
女を泣かせた事なんて……あるが、いつもなら放置しておく俺だ。
今は相手がメルシアである事により、泣かせるような冷酷な言葉もまだ口には出していないのだから、こればかりは焦るしかない。
焦りながらただ見守っていると、メルシアが涙声で呟く。
『マーサがぁ……』
マーサ?
なるほど――。
『解った。マーサとやらを、縛り上げればいいんだな?』
衛兵達がどよめく。揃いも揃って間抜けな顔を向けてくる。
それもそうだろう。
俺を仮にも人間だと思っている人間達にとって、手首を固定した鉄の塊を外し、鍵を施した鉄格子の扉を突破する事は限りなく不可能だ。
ましてやメルシアを泣かせたマーサとやらを縛り上げる事も。
奴らはそう思っているに違いない。
だが、俺は人間では無い。
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