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優雅というわけでもないが、マーサが用意してくれたブラックコーヒーを平常心を装って静かに啜る。
胃の中の胸やけのような症状も抜けてようやく落ち着きを取り戻した頃、メルシアが話し掛けてきた。
『あなたのお名前は?』
ペンを片手にそう問い掛ける。もう片方の手にはバインダーを持ってバインダーには用紙が挟んであった。
先程までの子供くさい仕草はどこへやら。メルシアの声と態度は至って真面目だった。
恐らくプライベートと女王である時の性格を変えているのだろう。
今は女王バージョンか。
器用なものだと感心するが、疲れないものだろうか。
とりあえず俺は自分の名前を答えた。
『カイだ』
『そう……カイ。変わったお名前ね。別世界と何か関わりがあるのかしら?』
『父親が別世界を好んでいてな、そういう名前を付けたらしい。それよりもお前が別世界を知っているとは驚きだ』
『別世界の存在はもう知られているわ。混乱を避けるために多くの人には伝えられてないけど。それじゃあ漢字があるのね』
『……まあな』
なぜか無表情でこちらを見つめるメルシア。
答えろという事か。
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