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メルシアは手に持ったバインダーに目を落とす。
気のせいだろうか。
その瞳はどこか悲しげで、聞き返してしまった事がとても悪いように思えた。
しかしメルシアが自分の口から人間では無いと言うのだから、興味がそそられるのも事実。
『確かに……お前は見た目は人間離れしてると思うぞ。いい……意味でな』
あまり女を褒めるのは得意で無いから、照れる。
けなすのは得意なんだが……。
『そういう事では無いの……。言ったでしょ。生きている長さ――』
そこでメルシアは顔を上げた。
色白の肌は眩しいシャンデリアの下ではひどく繊細で、ガラス細工のように壊れやすそうな印象を与えた。
俺がはじめに見た凛々しい女王の姿でも無く、泣き虫の子供のような姿でも無く。
今のメルシアは、真面目で、だけれどどこか何も知らない少女のような影を持っていた。これがもしかしたら。
本当のメルシアなのかもしれない。
『人はね、自分と同じでなければ人として認めてくれないの。そう……私が……長く生き過ぎたから。
あなたも、そうでしょ?』
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