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「にいさん、にいさんってばっ!」
「つっ……」
リクトは心地良い夢の世界から無理矢理帰還させられた。
面倒くさそうに上半身をお越して、ベッド脇に仁王立ちしているりると視線を合わせる。
りるは口をへのじに曲げていた。
いかにも機嫌悪そうに眉をしかめている。
「なんだ?」
「殺人」
「はい?」
起き抜けの脳は言葉を理解しそこねた。
どうゆうわけか、リクトの脳裏でサ・ツ・ジ・ン、と一文字づつぐるぐる回る。
「だから、殺人。人が殺されたの」
「誰が?」
やっと正常に稼動しはじめた脳に、リクトは舌打ちした。
自分の意識とは無関係に無意識下で情報をよくしている。
「ヤシンジさん。さっき斎藤さんが見つけたの」
「ずいぶん冷静だな、りる」
「だって」
りるは頬を膨らませた。
「悲しいときこそ、泣いちゃいけないって、そう教えたのはにいさんじゃない」
「そう……だったか?」
リクトはきまりわるそうに頭をかいた。
「まあ、言ったかもな」
リクトは曖昧に頷き、ベッドからおりて姿勢をただす。
「どこ?」
「こっち」
りるはリクトの手をとり、おもいっきり引っ張った。
表面上は取り繕えても、内面までは制御出来ないのだろう。
(若いな……)
自身もまだ十代だとゆうのにリクトはそう思った。
開け放たれたままのドアから、リクトはりると手を繋いだまま廊下にでた。
来た時には全く気にも止めていなかったリクトであるが、状況が状況なだけに、不似合いな鋭い視線を飛ばして周囲を観察している。
ある人物から言わせると、その視線は、まるで餓えたハイエナだ。
廊下は緩やかなカーブを描きながら伸びていて突き当たりがない。
どうやら、二階は円形になっているようだ。絨毯の色は血を連想させる暗い赤。壁は品のないクリーム色。どちらも長い年月に耐えかねて、精彩さが欠けている。
ホテルであった頃の名残か、天井には監視カメラが取り付けられていた。
道に迷ったヘンゼルとグレーテルの如く手を繋ぎながら歩いたりるとリクトは、幸いお菓子の家にはたどりつかずにすんだ。が、もしかしたらお菓子の家に着いた方がましだったかもしれない。
「あら、仲のよろしいことで」
艶やかな笑顔で二人を出迎えてくれたのは139号である。
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