レポート4

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「にいさん、にいさんってばっ!」 「つっ……」 リクトは心地良い夢の世界から無理矢理帰還させられた。 面倒くさそうに上半身をお越して、ベッド脇に仁王立ちしているりると視線を合わせる。 りるは口をへのじに曲げていた。 いかにも機嫌悪そうに眉をしかめている。 「なんだ?」 「殺人」 「はい?」 起き抜けの脳は言葉を理解しそこねた。 どうゆうわけか、リクトの脳裏でサ・ツ・ジ・ン、と一文字づつぐるぐる回る。 「だから、殺人。人が殺されたの」 「誰が?」 やっと正常に稼動しはじめた脳に、リクトは舌打ちした。 自分の意識とは無関係に無意識下で情報をよくしている。 「ヤシンジさん。さっき斎藤さんが見つけたの」 「ずいぶん冷静だな、りる」 「だって」 りるは頬を膨らませた。 「悲しいときこそ、泣いちゃいけないって、そう教えたのはにいさんじゃない」 「そう……だったか?」 リクトはきまりわるそうに頭をかいた。 「まあ、言ったかもな」 リクトは曖昧に頷き、ベッドからおりて姿勢をただす。 「どこ?」 「こっち」 りるはリクトの手をとり、おもいっきり引っ張った。 表面上は取り繕えても、内面までは制御出来ないのだろう。 (若いな……) 自身もまだ十代だとゆうのにリクトはそう思った。 開け放たれたままのドアから、リクトはりると手を繋いだまま廊下にでた。 来た時には全く気にも止めていなかったリクトであるが、状況が状況なだけに、不似合いな鋭い視線を飛ばして周囲を観察している。 ある人物から言わせると、その視線は、まるで餓えたハイエナだ。 廊下は緩やかなカーブを描きながら伸びていて突き当たりがない。 どうやら、二階は円形になっているようだ。絨毯の色は血を連想させる暗い赤。壁は品のないクリーム色。どちらも長い年月に耐えかねて、精彩さが欠けている。 ホテルであった頃の名残か、天井には監視カメラが取り付けられていた。 道に迷ったヘンゼルとグレーテルの如く手を繋ぎながら歩いたりるとリクトは、幸いお菓子の家にはたどりつかずにすんだ。が、もしかしたらお菓子の家に着いた方がましだったかもしれない。 「あら、仲のよろしいことで」 艶やかな笑顔で二人を出迎えてくれたのは139号である。
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