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とどめをさしたのは斎藤だった。
「残念ですが、携帯電話も使用できません」
年の功というべきだろうか。
斎藤の一語一句には、人を混乱させるヒステリックな響きはない。
むしろ、人を落ち着かせる効果があった。
「陸の孤島ですか、うーん、古典的ですね」と、テーブルに座るログンが呟く。
「そろそろ出番じゃない? にいさん」
りるがリクトの耳元で囁いた。
「……不謹慎ですが、犯人が誰か、考えてみませんか?」
そのセリフを口にしたのは、リクトではなくウィルだった。
「皆さん、退屈でしょう?」
「無理ですよ」
ログンが首を左右にふる。
「情報が少なすぎます。そもそも、アリバイのある人さえいませんよ。そうでしょう?」
誰の口からも返答はない。
しかし、沈黙は明らかな肯定だ。
「誰でも犯人になりうる。なるほど、推理しようがないですね」
すぴーるが何度も頷く。
「早くもお役ごめん?」
再び、りるがリクトの耳元で囁く。その声音には僅かに、面白がるニュアンスがふくまれていた。
「でも、皆さん自殺だと考えてますよね?」
すぴーるが首を傾げながら指摘する。首が細いので、折れてしまいそうだ。
「この状況で密室殺人をしても意味がありません」
ログンが冷静に事実を告げる。
「普通に殺しても問題はないのに、わざわざ密室にしますか? おそらく自殺でしょう」
「でも、ミスリードするのが目的かもしれませんよ」
すぴーるの弁舌が熱をおびる。
「どうして? 目的は? みんなを油断させて皆殺しにするの? そんなことをして犯人に理がある?」
「快楽殺人かもしれません」
「快楽殺人なら、なんでここでやるの? 家でじわじわ殺れば、もっと楽しめる」
「でも……」
「あのね、すぴーるさん」
ログンは急にしゃべり方を変えた。ひどく優しく、甘く、冷静な声音だ。
「殺人にこだわる必要はないんだよ? 不安なのはわかるけど、落ち着こうよ。いざとなったら、僕がすぴーるさんを守るから」
聞いているがわが恥ずかしくなるセリフを、ログンは平然と口にした。
すぴーるは顔に紅葉をちらす。この時、リクトはやっと皆が見た目ほど冷静でわないのだと気が付いた。
リクトには凄惨な死体を見てきた経験があるが、普通はそんな経験はない。
精神的にぐらついて当然なのだ。何事も、自分を基準にして考えると多かれ少なかれ誤差が発生してしまうものなのだ。
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