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「結局ふたりっきりになっちゃったね」
すぴーるとログンは連れ立って部屋に戻り、139号もいつのまにか消えていた。
ダイニングに残ったのはりるとリクトだけだ。
斎藤の姿が見えないので、二人は勝手にコーヒーをいれてすする。
「そうだな」
リクトの返答は素っ気ない。
彼の辞書にはユーモアの四文字はあるが、愛嬌の二文字はないのだ。
「にいさんは誰が犯人だと思う?」
「自殺だろうな。だから犯人はいない」
「……もうちょっと考えようよ」
何を考えろと言うのだろうか? リクトはあきれた。
りるはどうもリクトを過大評価しているふしがある。
確かに、リクトは警察がさじを投げた事件を解決している。しかし、それは警察の協力があってこそだ。
リクトには警察が持っている情報収集能力が決定的に欠けている。よって、リクト個人には事件を解決する能力はない。
現在の状況では警察の協力を望めるはずもなく、リクトは手も足も出せない。
「さっきログン君も言ってただろ? 誰でも犯人になりうるんだ。犯人を特定する材料がない。カカオなくしてチョコレートは作れない」
「でも、それじゃあ、犯人がいても分からないって、ことだよね?」
「……まあ、そうだな」
りるは沈黙した。りるの気持ちは分からないでもない。
完全犯罪はあってはならない。しかし、現実的に考えれば解けない謎があるのだ。
リクトが探偵を自認しないのはそのあたりに理由がある。
もし、リクトには解けない謎にぶち当たったらリクトはどうすれば良いのか。
無力感に打ちのめされて、回復するのにかなりの時間がかかるだろう。
だが、リクト自身がどんなに傷ついても謎は解けない。それは余りにも虚しい。
もちろん、そんな感情はただの甘えにすぎない。
誰しも、生きている限り、無力感からは逃れられないし、生きる事は戦いなのだから。
雪がふっているからか、一切の音が絶たれる。
だからだろうか。
聴覚を刺激した悲鳴は、長い余韻をもたらした。
知らぬふりをしてやろうかともリクトは考えたが、例のごとく、りるに手を掴まれ心ならずも駆けだすはめになった。
悲鳴は二階からだ。階段を駆けのぼり、廊下を半周する。
ドアの前で、すぴーる、ウィル、139号、ログンが、各々微妙な表情でリクトとりるを出迎えた。
リクトは部屋を覗く。
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