レポート1

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ノートパソコンの電源を切り、ディスプレイを倒して閉じる。 ジョイントがいかれているので完全には閉まらない。 にいさんが壊したのだ。まったく、こまったものだ。彼に物を貸してまともな姿で帰って来た試しがない。 いい加減、私も堪忍袋の尾が切れかけているけれど、物書きを生業にしている彼にパソコンを貸さないわけにはいかない。 彼ときたら、物書きのくせにパソコンを持っていないのだ。 しかも、めちゃくちゃ文字が汚い。初めて彼の直筆原稿を読んだ時、私はアラビア語だと本気で勘違いしたぐらいだ。 私がパソコンを貸してやらなければ、絶対に原稿を受け取って貰えないだろう。 もっとも、貸そうが貸すまいが彼が良い作品を思いつかなければ意味はない。 文机の隣に置いてある簡素な本棚から、思い出深い雑誌を取り出す。にいさんの作品が初めて掲載された雑誌だ。 にいさんの作品を一字一句、ゆっくり読んでいく。文章は拙く、物語もいまいち面白くない。けれど、一貫した何かを感じさせてくれる。 それは、作品に隠された暗号が、作者の遊び心を表しているからだろう。暗号はコツさえ知っていればすぐに解けるタイプだ。 私は三度読み返して暗号を解いた。暗号は彼の住所を表していた。 何かの冗談か、悪戯の類いだと思いつつも、住所が私の家に近かったから、興味本位で彼の家を訪ねた。 そして私はにいさんと出会い、今の関係を築いた。私は多分今の関係で満足している。おそらく彼も満足しているだろう。彼は最初から私を異性として見なかった。 女としては嬉しくないけれど、それはそれで構わない。 でも、なんとなく拍子抜けしたし、ちょっと頭にきた。 雑誌を本棚に戻してベッドに横たわる。部屋の隅で焚かれた香の香りが鼻先を掠めた。 少し考え事をしよう。
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