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「出来ればこんな雑務に関わりたくないけれど、警察には借りがあるしね。しかたない、犯人が誰なのか教えよう」
我ながら陳腐な台詞である。
天才考古学者、神威白土の言葉とは思えない。
相変わらず頭の中にあるイメージを外に引っ張り出すのは苦手だ。
ルーン文字を彷彿させる汚い文字に呆れつつ、ノートを固く閉じる。
思いっきり伸びをして、そのまま仰向けになった。
硬い床の冷たさが背中に伝わって心地良い。
部屋には暖房器具どころか冷蔵庫やテレビもなく、古くさい小さなちゃぶ台ぐらいしかない。
よって、真冬でしかも雪がちらほらと降る今日この頃、床の冷たさを気持ちよく感じるなら、風邪をひいているのかもしれない。
少し休むべきだろうか?
このあたりで説明しておこう。僕は売れない作家だ。あまりにも売れなさすぎて、持ち込みで生活している三流作家である。
小説を書くだけではとても生計をたてられないので、副業で探偵等もやっている。
とある事件を解決したさいに警察とコネクションを持ち、時々依頼が来るようになった。
おかげで、今の所食いっぱぐれずにすんでいる。
ルルル・・・。
リサイクルショップで見つけた古い電話機がなった。仕方なく受話器をとる。
「はい」
「にいさん? りるだけど」
「ん……ああ」
ろくに手入れしていないボサボサ頭をガシガシ掻きながら起き上がる。
「なんだ?」
「明日暇?」
「暇と言えば暇だし、暇でないと言えば暇じゃない。」
「なにそれ? べつに良いけど。あのね、ちょっと旅行しない? 明日から一泊二日で」
「旅行ねぇー」
はっきり言って面倒くさい。
「小説の題材になるかもよ」
煮詰まっているのを見透かされている。おそらく、気分転換にでもなればと気をつかっているのだろう。
「じゃあ行こうかな」
「よかった。明日、8時ぐらいに迎えにいくから、ちゃんと用意してね」
「ああ」
受話器を置いて、また仰向けになる。少し考え事をしよう。
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