レポート2

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貴方は? 来てないのはミカエルとゴロウだけど?」 139号とやらは小首を傾げた。アンニュイな外見のわりに、ひどく幼い仕草である。 「私がミカエルです。この人は私の付き添いで、たん……」 「作家を生業にしています。僕はWEBネームを持っていませんから、筆名でも構いませんか?」 139号はおかしそうに微笑みながら頷く。 「リクトといいます」 「リクト? 聞いたことないけど」 当然である。リクトが書いた小説が一冊の本になったのはたった一回だけなのだ。 知っているほうがおかしい。 「有名ではありませんから」 「ふーん。あっこれ部屋の鍵。部屋は階段を上がって右側ね」 りるは部屋の鍵を受け取った。細かい装飾が施された値段の高そうな鍵だ。頭の部分に金で203と書かれてある。 「あの、ヤシンジさんは?」 りるが当惑したふうに聞く。 「別に挨拶する必要はないてっ言ってたし、忙しそうだから、邪魔しないほうが良いよ」 139号はパタパタ手を振った。 「じゃあ手伝いましょうか?」 ヤシンジはオフ会の主催者であるが、だからといってすべて押し付けるわけにはいかない。 「いえ、執事連れて来てるから、手はいらないらしいよ」 「羊?」 と、リクトは問いかけした。 「し・つ・じ、身の回りの世話をしたり、資産を管理する人」 「ああ、成る程」 リクトは感慨深くぼやいた。 「さぞお金持ちなんでしょうね」 「ここも彼が所有してるしね」 想像以上のお金持ちかもしれないと、リクトは思った。 余程お金が有り余っていない限り、山奥に建つむやみやたらにでかい建築物など、購入しないだろう。 まったく、羨ましい限りである。リクトなど、食費すらままならないのに。 「じゃ、そうゆう事で」 139号は、若い雌鹿を思わせる、さっそうとした仕草で階段を登って姿を消した。 「ちょっと、にいさん、なんで探偵だって言わなかったの?」 「しつこいぞ、りる」 リクトはあくまで作家でいたいのだ。探偵は副業にすぎない。 「でも」 食い下がるりるにリクトは手をヒラヒラ振った。 「いいか、俺は作家だ。誰がなんと言おうとな」 「でも、作家業では食べていけないんでしょ」 リクトは痛い所を突かれた。売れない作家は惨めなのだ。 本が売れなければ印税などもらえないし、(正確に言うと印刷されれば、売れなくても印税がもらえる)原稿料も大した額にならない。
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