1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
ある盲目の話
―渡辺―
暗く何も見えない。未来のことすら見えないというのに、目先のことまで見えないとはどうしたものか。
つい一時間前までは見えていた、そう考えると悲しさよりも、虚しさを覚える。きっと見えるようになるのだろう、そう思っていた。だが願望は結局願望に過ぎなかった。もうこの眼が光を認識することは、ない。見えているのに見えないのだ。
「ひどすぎるだろ」
自分を落ち着かせるかのように呟く。そして耳は正常な働きをしたことに少なからず安堵を覚えた。
最初のコメントを投稿しよう!