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さて、そこで僕は考えた。
彼女のことを乙女ではない、と言ったものの、その実、彼女は乙女なのである。
彼女は恋人との口付けを前に、『彼ではない。違う』と感じ、防衛手段に走ってしまった。
…実に古風な乙女のような気がしないだろうか?
「僕だけかな?」
独り言が自然と口からこぼれてしまった。
周囲を見回して、冷たい視線は無いだろうかと気に病む。
良かった。
僕一人だけだ。
渡り廊下に設置された自販機の前で、僕は安堵の溜め息をついた。
「…牛乳牛乳…って…」
こんなこともあるのかと愕然とした。
珍しいことに牛乳が全て売り切れている。
売り切れていない、乳という漢字が使われている飲み物といえば、あとは豆乳だけだった。
「仕方ない」
百円を自販機に入れ、迷わず豆乳のボタンを押した。
そう、代わりになりそうならそれで代用すればいいのだ。
「…あ。そうか」
彼女もまた誰かの代わりが欲しかったのかもしれない。
そう考えると、先ほどの愚痴も実に興味深く感じた。
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