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隣に新しい人が越して来た、と姉が嬉しそうに言っていた。
姉によると、隣に越して来た家族の息子がかなりのイケメンで。
昔から「男は顔が命よ!」と豪語している姉には堪らない程のイケメンらしいのだ。
男であるオレは全く興味が無く、ふうんと相槌を打つ程度に参加していた。
不意に。
リビングに響き渡る呼び出し音。
母は夕飯の支度で出られる状態ではなく、姉に至っては「お前が行け」と言わんばかりに俺を睨みつけている。
仕方なく思い腰を上げれば、ドアノブに手を掛け、玄関を開けた。
途端、視界を支配したのは。
見惚れる程の、金。
太陽に揺れる金糸の髪は風に揺られ、着崩した制服が似合う。
柔らかく弧を描く口元が、僅かに動いた。
「君、此処の家の子か?」
耳に残る、甘い低音ボイス。
灰色がかった瞳に捉えられれば、頷く事しか出来ない。
そんなオレを見た彼は、整った顔を崩して小さく笑い、オレの頭をそっと撫でた。
「今日、隣に越してきた…浅岡だ。よろしくな」
次第に早くなる鼓動が、煩い。
彼に聞こえてしまうんじゃないかって思う位に、ドクドクと脈を打っていて。
「君は?」
「……、あら、た…西野、新…」
「新、か。よろしくな……新」
中学一年の春。
オレは、初めての恋をした。
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