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賑やかな声が、窓の外から聞こえる。
軽く身を乗り出して外を眺めれば、沢山の生徒が視界に入ってくる。
ある生徒は涙を流し、
ある生徒は笑顔で別れを告げ、
でも、皆誇らしげに、胸を張っていた。
そんな柔らかい雰囲気から逃げる様に、オレは誰も居ない教室で、たった一人で外を眺めていた。
下からオレを呼ぶ声も何度かあったけれど、オレは愛想笑いで流し、その場から動こうとはしない。
正直、皆と同じ様にはしゃげる気分では無かったから。
ふぅ、と重々しく吐いた溜息は、桜を運ぶかの様に吹いた風にさらわれていった。
「やっぱ此処に居たのかよ」
不意に、聞き慣れた声が耳に届いて。
反射的に振り返れば、
出会った時に見惚れてしまった綺麗な金髪は真っ黒に染められ、学ランのボタンは全て無くなり、胸には花のブローチ、手には筒を抱えた幼馴染み……兼、恋人が、顔に笑みを張り付け立っていた。
「……、湊…」
「何で一人で教室なんかに居んだよ。皆下に居るんだし、オメェも下に来りゃ良いじゃねぇか」
「……………」
「…ったく」
彼の――浅岡 湊の気配を、オレの横で感じる。
案の定湊はオレの隣に立って、窓から身を乗り出し、外を眺めていた。
そしてオレの頭に手を伸ばせば、いつもの様にわしゃわしゃと髪を掻き混ぜてきて。
「んな顔してんなって。オレのせっかくの晴れ舞台、なんだからよ」
そう、笑顔で告げる湊の表情に、胸がつきん、と痛んだ。
今日は、湊の卒業式だった。
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