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「………、は…?」
唖然とした表情で、湊が固まった。
片手に携えていた煙草が、床にぽとりと落ちた。
「…湊ももう大学生だろ?やっぱオレみたいなんと遊んでちゃ駄目だ」
笑顔を崩さず、
「それに、オレなんかよりももっと美人で、可愛くて、優しい人がいる」
本音を隠して、震える声を抑えて、
言葉を並べる。
視線は、窓の縁から離せない。
今、きっと湊は、痛い位にオレを見つめているだろうから。
「こんなガキと付き合ってくれて、ありがとな」
「おい、新」
「オレ、本当に湊が大好きだった」
「新、」
「だから、湊…」
「新!!」
ぐい、と肩を引かれて。
無理矢理合わされた視線は。
やはり、怒りの色が浮かんでいて。
でも…それでもって、哀しさ、切なさ、絶望の色が宿った、眼差し。
胸が、きゅう…と締め付けられた。
「…本気で、別れたいって言ってんのか」
「みな、と…」
「俺が、遊びなんかで男と付き合うとでも、思ったのか」
「…っ、いてぇ、よ!」
無意識なのだろうが、爪が食い込むまで肩を捕まれ、痛みに顔を歪ませれば僅かに緩む、力。
その隙を見て、オレは湊の手を振り払った。
「!、あら…」
「嫌、なんだ!」
湊に背を向けて、
涙が、零れない様に唇を噛み締めて、
オレは、言葉を紡ぐ。
「…今まで通りにはいかないだろ!?お前は大学生で…これから忙しくなる、それに…家を出て一人暮らしするんだろ!しかも大学の近くの!」
「…、新」
「そこまで遠くない距離だから、会いに行こうと思えば会いに行ける…そんなん、解ってんだよ!でも…っ」
「あら、た…」
「………、遠いん、だ…っ」
近くに、湊が居ない。
学校にも、
隣にも、
何処に行っても、
「…遠く、なるばかりだ……っ」
噛み締めていた唇を開いたら、
頬を、一筋の涙が、伝った。
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