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白を基調としたスタイリッシュな事務所はそれほど広くはなく、間仕切りの代わりとなっている本棚がいくつかある。
あゆみがいつも仕事の電話をかけるときは人目を避けるようにその本棚と向き合う形が定位置になっていた。
「・・・ええ、それは十分承知です・・・そこをなんとか!あっ!ちょっ待っ!あー・・・切れた」
午後八時を過ぎた事務所は人気がなく、あゆみのため息がやけに大きく聞こえた。
このマネージャーの仕事も五年目、ブレイクまでとはいかないが、初めてマネージメントしたアイドルグループはそこそこの定位置についている。
日々かわる流行の中、ニーズに合わせた仕事をこなしていくのはやっぱり大変だ。
さっきの電話のように断られることは少なくはない。
時計はまもなく九時を指そうとしていた。
たくさんならぶ本にコツンと頭を付けてうなだれると、帰らなければという気持ちが沸き、すぐに振り向いた。
すると、一人、壁のように立ちふさがる姿があった。
あゆみが担当するアイドルグループの『ソウマ』だ。
あゆみは予想していないシチュエーションに思わず驚き、後ろの本棚にぶつかった。
「おっとあぶない」
大きい振動を受けた本棚からは、何冊か落ちそうになり
ソウマがとっさに本を押さえた。
あゆみは本棚とソウマの間にいる形になる。
飲み込めない展開と、改めて近くでみるソウマにあゆみは目を見張った。
はるかに自分より高い身長、長い手足、細いけど大きな手、ついこの間まで自分より小さかった男の子は、いつのまにか私を見下ろしてる。
ソウマは本をもとに押し込むと、ゆっくりと目線をさげ、目を合わせた。
「あぶねーよ」
そういうと本棚とあゆみから離れ、近くの椅子に腰掛けた。
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