ノスタルジア

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こんなに祈っているのに、やっぱり今日も駄目だって言うの? 私は深いため息をつき、目の前のそれを睨みつける。 どうしてかしら。 どうして、他の人には簡単に出来ることが、いつもいつも私にだけは出来ないのかしら。 背中をすぅと冷たい秋風が通り過ぎていく。 ああ、私はただこの暖かい店内で安いランチを食べたいだけだって言うのに。 ねえ。 どうして、ここの自動ドアも開かないの? もう、涙が出そう。 ううん。 本当はわかっているのよ。 もう一度。 もう一度自動ドアの前に立てばちゃんと開くってことは。 でもさ。 普通の人は一度で開くじゃない? どうして。 どうして私だけいつもいつも自動ドアの前に二度立たないと開かないのかしら……。 もう、これって屈辱と言っていいレベルじゃなくって? 私と自動ドアとの生涯格闘数なんて数えちゃいないけど、意識し始めてからこっち連戦連敗なんだもの。 それでも自動ドアを見ると挑みたくなっちゃう私って、これはもう不幸体質としか言いようがないんじゃないかしら。 不幸と言えば、男運だって最悪だし。ああ、もうっ。 仕方ない。やっぱりここを諦めて、隣の手動扉の喫茶店でランチにしようかしら、と。私がそこまで考えを纏めたとき。 「お困りですか?」 と、背中の方から優しさを目一杯詰め込んだような、艶やかなテノールの声が響いてきた。
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