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「え?」
私は拍子つかれた。
いきなり彼がそんなことを言うからだ。
「犯人は千早さんを襲い、指紋を残さずそこから立ち去った。…これだけ聞けばただの完全犯罪ですが、」
完全犯罪をただの扱い
…恐ろしい奴め。
「でもおかしいんです。実は、
彼女が襲われた凶器がわかったと聞きました。」
「は?誰に…」
私が聞くまでもなく、二階堂は自身の携帯を開いて、私に見せつけた。
「神永が教えてくれました。メールでこっそり。
鑑識課の方々が東野さんにこそこそ話ているのを聞いていたそうです。」
まったく…
隙のない奴というか…
「で?そこには何と?」
今すぐ部屋に戻って神永に盗み聞きのお説教をしてやりたかったが、聞いてしまったものは仕方がないし、今はそれどころでないので彼の話を聞くことにした。
「はい、千早さんは鈍器のようなもので後ろから殴られたそうです。
凶器は彼女がインテリアとして使用していたガラスの大きな灰皿で、そこに血痕が発見されたため確実だということみたいです。」
「いたって普通じゃあないか。」
「でも、ここからが少し変なんですよ。」
二階堂は、神永からもらったメールをじっくり読み返しながらたんたんと話した。
「その灰皿は、調べたところタンスの中にしまわれていたみたいなんです。埃が被ってて、そこだけキレイに灰皿の底の形がいってたそうです。」
「…なに……?」
「つまりはですね。
犯人は、千早さんを襲うために、タンスから灰皿を取り出して、彼女を殴ったと考えられます。」
二階堂は『取り出して』の部分を強調しながら結論を出した。
でも、一体なぜ?
凶器になるものだったら机の上の花瓶だって、探せばいくらでも見つかりそうなのに、
どうして犯人は、わざわざタンスから灰皿を取り出したのだろうか。
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