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「在五!(ざいご)そっちへ行ったぞ!」
「はい!親王(みこ)さま!それっ、早う囲め!」
晴れ渡る弥生の空の下、桂川、鴨川、宇治川等をあつめた水無瀬川の周辺は、格好の猟場である。
背に六甲の山々を臨み、左手には青々とした芦の原…そして、絶えることのない水音が静かにうたっている。
どこまでも晴れ渡る青空にもかかわらず、〔親王〕と呼ばれた若者の、端正な顔には、深い翳りがあり、その翳りを吹き払う為の、この日の狩りであった。
ドスッ…
親王の放った矢が、若い牡鹿の動きを止めた。
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