第六和:罪の意識と本当の気持ち

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 京次郎は、路上で自分の耳を掴んだまま固まる塚紗と、その塚紗の左手を掴む男を交互に見つめた。  先ほど塚紗が口にした“蒼”という名。それは多分今目の前にいる自分の見知らぬ男の名だろう。 固まったまま動かない塚紗に、蒼はピクリと眉を動かすと、切れ長の目尻が座る。 「全く貴女というお人は……。私が一体どれだけ探したと思ってるんですか! 戦の最中姿が見えなくなったと思えば私に何も言わずに蒸発! 護衛する身にも少しはなって下さい!」  突然説教し始めた蒼。塚紗は京次郎の耳を離し、今度は自分の片耳を塞いだ。 「またこんな怪我までして! 貴女に何かあってはお頭に示しがつきません! だいたい貴女はっ……!」  更に続く説教に、段々と青くなる塚紗の顔。 「だー分かってるっつの!」 「嘘仰い!」  まるで漫才のようなこのやり取りに、周囲に人だかりが出来始める。しかしやり取りは終わらず更に続いた。 「女性なんですからもう無茶な事は止めて下さい!」 「っ……!」  蒼の言葉に、塚紗は掴まれていた腕を弾く。 「そんなの、関係ないだろ!?」 「そんな事では素敵な殿方と出会えませんよ」 「うっ……」  塚紗は蒼の言葉にチラリと京次郎を見る。京次郎は呆然としながら、何故塚紗が自分を見たのか分からず首を傾げた。 「オレはこのまま独り身で良い! 今は目的果たす事で精一杯だ!」 「全く貴方と言う人は……」  眉間に皺を寄せ頭を抱える蒼に舌を出す塚紗。 その間に、先ほどまでしゃがみ込んでいた柚禾が京次郎に近づき手を差し出した。 「助けにきたのに手借りる俺って……」  ははは、と苦笑いで返す柚禾。京次郎はそんな友の手を取り立ち上がると、未だ言い合いを続けている塚紗たちに声をかけた。 「なぁ、このままここで言い合いを続ける気か?」  京次郎の言葉に、二人はやっと周りからジロジロと見られている事に気づき言い合いを止める。 「じゃ、毎度の事ながら俺ん家な」  勝手に歩き出す京次郎に、塚紗を始め、蒼、柚禾はついていくしかなかった。 .
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