第六和:罪の意識と本当の気持ち

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「ん、ご苦労」  面会室の前にたどり着いた斉藤は、部屋の前で待機している警官に一声かけた。警官がそれに答えるように敬礼すると斉藤は扉の取っ手を握る。そして静かに押し出したその時……。 「よう、鬼島はげん――」 すたん。  顔を出した斉藤の真横の柱に、刀が突き刺さった。 紙一重で斉藤には当たらなかったが、数本の髪が床に舞う。 「よう、斉藤」  突然の不意打ちで完全に硬直した斉藤に、ドスの利いた声が投げかけられる。その声はとても低く、誰が見ても、聞いても、明らかに殺気が漏れだしていた。 「つ、塚紗……」  斉藤はひきつった笑みで、自分に殺気を放っている人物の名を呟く。 そこには、真ん中に用意された椅子に座り、行儀悪く机に足をかけながらじっとこちらを睨み付けている塚紗がいた。 「てめぇ……よくもしち面倒くせぇことしてくれやがったな」  まるで般若の如く形相に、流石の斉藤も身の危険を感じずにはいられなかった。 例え相手の手元に刀が無くとも。 「いや、あの場合は仕方ないでしょ、なんせあの鬼島だし? それに、塚紗も本当は会いたかったんだろ?」 「てめぇ、分かってんのか。オレが今やろうとしてる事は私怨だ。そんな事の為にアイツを死なせかねないんだぞ」  相変わらず睨み付けて言う塚紗に、斉藤は開きっぱなしだった戸を閉める。 「そんな危険な事に首突っ込もうとしてるって知ってたら、余計言わざるを得ないな」 「なっ……!」  その言葉に塚紗は拳を握り斉藤を睨む。 斉藤は睨み付けられながらも淡々と続けた。 「俺含め、みんなお前に死んでほしくないと思ってる。自分が何もしないうちに死なせるなんて以ての外だ。お前なら分かるだろ」 「……」  塚紗は視線をそらし俯く。 「お前は、他人を突き放すには優しすぎるんだよ」  斉藤は、自分よりも小さな塚紗の頭を、ぽんと一度撫でるとそのまま戸から出て行ってしまった。 もちろん、戸のすぐ横の柱に突き刺さった刀はそのままにして。 「……結局まるめこまれちまった」  塚紗は一人不服気味にため息をつくと刀を鞘に戻し、警察署を後にした。 .
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