第六和:罪の意識と本当の気持ち

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「はぁ、なんかムシャクシャする。一杯やるか、久々に」  警察署を後にした塚紗は、ふてくされたように一人ごちるとある店の前で立ち止まった。以前立ち寄った事のあるその店は朝吉夜吉と初めて出会い、京次郎や桂と出会うきっかけとなった場所だった。 がらがらがら――……。  塚紗は、少し歯切れの悪い音をたてながら開いた戸をくぐり中へと入る。 するとそれに真っ先に気づいた店員が定番の台詞を口にした。 「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」  塚紗は、酒を三本程頼むとあの時と同じように一番奥の席に腰を落ち着かせる。  それから程なくして徳利が塚紗の頼んだ数だけ置かれ、塚紗はその中身をお猪口に注ぐとゆっくりと喉に通した。 「ふぅ」  注いだ分を飲み干した塚紗は更に足していく。 そうして二本程空けると、塚紗は卓に肘を突き物思いに耽った。 (何で、オレの周りに人が集まるんだ……? 京次郎といるからか?)  突き放そうにも、周りから寄ってくる。かと言って、“仲間”という居心地の良さを知ってしまっている自分が、京次郎たちを無碍に出来るはずは無かった。 (分かってた、つもりだったんだけどなぁ……)  そうこうしている内に、残りの一本も空にしてしまっていたことに、お猪口についでから塚紗は気がついた。そして追加を頼もうとした時、ちらりと出入り口を見た塚紗の視線は“ソレ”に釘付けとなる。 塚紗だけではない、他の客と店員、すなわちこの店全ての視線がある一点に集中していた。 「ここに、原菜塚紗という者はおりませんか」  全員の視線の先の“ソレ”とは、綺麗な着物に身を包んだ、正に大和撫子だった。 ――第六話終幕。
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