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「ここに、原菜塚紗という者はおりませんか」
突然現れた大和撫子はそう口にした。
何故自分の名を彼女が知っている? 塚紗はそう問おうと開いた口を、日本酒の追加の為に使い彼女に背を向ける形で座り直す。もちろん、入り口の方に聞き耳をたてて。
入り口の方では、他の客である男たちが大和撫子に群がり、自分が原菜だ! いや俺がそうだ! などと、彼女を振り向かせる為に一生懸命になっていた。がしかし、だ。
彼女はそんな男たちに見向きもせず、店の中で視線を巡らせていた。
そして、一番奥で未だこちらを向かず運ばれた酒に手を出している人物で視線を止めた。言わずもがな、塚紗である。
「お退きなさい。邪魔です」
澄ました態度でそう言った大和撫子。彼女は唖然とする男共を一瞥すらせずにまっすぐに塚紗の席へと近づく。
「あなたが、原菜塚紗ですね」
確信めいた言いように、塚紗は大和撫子をちらりとみやる。しかし塚紗は、なんの事だ。と一言返すと背後から感じる只ならぬ視線を感じつつ視線を戻し酒を口に流し込んだ。
「あら、藤田様からお伺いした特徴が、あなたとぴったりですわ」
「藤田ぁ?」
大和撫子が口にした名に、塚紗は首を傾げる。
そんな時、出る機会を待っていたかのように店の戸が再び開き、聞き覚えのある声が店に響いた。
「藤田は俺だよ」
そこにはたったさっきまで一緒にいた斉藤が微笑を浮かべて立っていた。
塚紗は思いもよらぬ人物の登場に、ただ口を鯉のようにぱくぱくと開くしかなかった。
「ま、詳しい話しは例の場所で」
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