第七和:見えるものと見えぬもの

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「恋、文……?」  塚紗が手にした文には次のように書かれていた。 ――十六夜様。  突然のお便り、申し訳ございません。 しかし、どうしても貴女様に知っていて頂きたい事があったのです。 ……貴女様をお慕いしております。 突然の事で何事かと思われるでしょうが、貴女様を町中で偶然お見かけした時からずっと、如何なる時でも貴女様が頭から離れません。 私は身分のとても低い者で、こんな文さえ出してはならないのも決して叶わない恋だと言うのも全て承知です。 それでも、貴女様を心から愛している者がここにいるという事を知っていて頂きたかったのです。 どうか、こんな身勝手な私をお許しください。 どうか、いつまでも貴女様のその素敵な笑みが続きますように。――  塚紗が読み終えると、それを畳み座卓に戻した。 「十六夜殿はこの差出人を見つけたらどうするおつもりなんですか?」  塚紗は静かに問う。 そんな塚紗に、十六夜は凛とした表情で返す。 「もちろん、どのような方なのか見定めます。そして、もし私が思っていたような方でしたら……」  本日初めて見せた十六夜の笑み。 塚紗はそんな十六夜に小さく笑みを浮かべると、朝吉を見た。 朝吉は先ほどからずっと俯き、顔をあげようとはしない。 「朝吉、お前は十六夜殿の護衛に付け」 「なっ……!?」  突然の塚紗の言葉に、朝吉は勢いよく顔を上げた。その顔は仄かに赤みを帯びている。 「で、後はその“すとおかあ”ってのを探すぞ」 「? 恋文の差出人はどうするのですか?」  塚紗の斜め後ろに座っていた蒼が首を傾げる。 そんな蒼に塚紗は意味深に微笑みかけると、 「それは後だ」  ほら、行くぞ。塚紗は京次郎等を促すと、朝吉たちを置いてその場を後にした。 .
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