第七和:見えるものと見えぬもの

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 裏路地街。それはこの町の大通りから離れた路地裏に、世知辛い生活を送っている人々が集まり、一つの街のように広がった為に、そう呼ばれるようになった場所である。 そして今、塚紗たちはその裏路地街にいた。文を持つ柚禾を先頭に、塚紗たちは奥へと進んで行く。 「噂は聞いてたけど、ここまで酷ぇとはなぁ……」  見かけた住民たちは皆、継ぎ接ぎだらけの着物を纏い、そして誰もが塚紗たちをじっと見つめていた。道ばたには、何人か倒れている者もいたが、誰も気にかける者はいない。 「……よく見とけ、お前の親父がしていることが如何に大事なことか分かるだろ」  京次郎は塚紗の言葉に唾を飲み込んだ。そんな様子に塚紗は小さく笑みをこぼす。 「あ、この家です」  しばらく歩いたところで、柚禾が声を上げた。そこには周りと同じようにぼろぼろで、とても誰かが住んでいる“家”とは思えないような小屋がそこにあった。 「……」  塚紗は戸の前に立つと、ちらりと京次郎を見る。そして互いに頷くと塚紗は戸を軽く叩いた。 そしてしばらく待ち、 「……?」  戸は開かなかった。開くどころか物音一つせず、誰もいないように思える。 「本当にここなのか?」 「あ、京酷い」  疑問を投げかける京次郎に口をとがらせ抗議する柚禾。そんな時、隣の戸が鈍い音をたてて開いた。 「なんだい、あんたたち。お隣さんならさっき出かけてったよ」  やはりボロボロの着物を纏った、五十前後の女性が隣の小屋から出てきてそう言った。塚紗たちは互いに視線を交わすと再びその女性に目をやる。 「何処に行ったかわかりますか?」 「さぁねぇ。ただ最近、あるお嬢さんに惚れ込んじまったって話は聞いてるけど、そのお嬢さんの家とかじゃないのかい?」  女性の言葉に考え込む塚紗。そんな塚紗に、京次郎が口を開いた。 「屋敷、行ってみるか?」 「……いや、念のため一度戻ろう。ご親切にありがとうございます」  始めに京次郎、次に女性にそう言うと、塚紗は、行くぞ。と短く言い歩きだす。 京次郎たちは首を軽く竦めると塚紗の後を黙って追った。 .
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