760人が本棚に入れています
本棚に追加
裏路地街。それはこの町の大通りから離れた路地裏に、世知辛い生活を送っている人々が集まり、一つの街のように広がった為に、そう呼ばれるようになった場所である。
そして今、塚紗たちはその裏路地街にいた。文を持つ柚禾を先頭に、塚紗たちは奥へと進んで行く。
「噂は聞いてたけど、ここまで酷ぇとはなぁ……」
見かけた住民たちは皆、継ぎ接ぎだらけの着物を纏い、そして誰もが塚紗たちをじっと見つめていた。道ばたには、何人か倒れている者もいたが、誰も気にかける者はいない。
「……よく見とけ、お前の親父がしていることが如何に大事なことか分かるだろ」
京次郎は塚紗の言葉に唾を飲み込んだ。そんな様子に塚紗は小さく笑みをこぼす。
「あ、この家です」
しばらく歩いたところで、柚禾が声を上げた。そこには周りと同じようにぼろぼろで、とても誰かが住んでいる“家”とは思えないような小屋がそこにあった。
「……」
塚紗は戸の前に立つと、ちらりと京次郎を見る。そして互いに頷くと塚紗は戸を軽く叩いた。
そしてしばらく待ち、
「……?」
戸は開かなかった。開くどころか物音一つせず、誰もいないように思える。
「本当にここなのか?」
「あ、京酷い」
疑問を投げかける京次郎に口をとがらせ抗議する柚禾。そんな時、隣の戸が鈍い音をたてて開いた。
「なんだい、あんたたち。お隣さんならさっき出かけてったよ」
やはりボロボロの着物を纏った、五十前後の女性が隣の小屋から出てきてそう言った。塚紗たちは互いに視線を交わすと再びその女性に目をやる。
「何処に行ったかわかりますか?」
「さぁねぇ。ただ最近、あるお嬢さんに惚れ込んじまったって話は聞いてるけど、そのお嬢さんの家とかじゃないのかい?」
女性の言葉に考え込む塚紗。そんな塚紗に、京次郎が口を開いた。
「屋敷、行ってみるか?」
「……いや、念のため一度戻ろう。ご親切にありがとうございます」
始めに京次郎、次に女性にそう言うと、塚紗は、行くぞ。と短く言い歩きだす。
京次郎たちは首を軽く竦めると塚紗の後を黙って追った。
.
最初のコメントを投稿しよう!