760人が本棚に入れています
本棚に追加
静まり返った木戸邸の居間に三人はいた。
塚紗たちが出て行った時と同じ位置で座卓を囲む斉藤と十六夜、そして朝吉。
斉藤と十六夜はただじっとしていたが、朝吉は落ち着きもなくちらちらと十六夜の顔色を伺っている。
「……えっと、お、お茶、飲みます?」
「結構です」
「あ、はい……」
やっとの事で絞り出した言葉だったが、あえなく一刀両断されてしまった。
そうして再び沈黙が訪れる。
「……はぁ」
朝吉は二人に気づかれないよう小さくため息をつくと、
(恨むっすよ塚紗さん……)
心の中で密かに涙した。
そんな何もない時間が半刻程過ぎた時、突然何やら玄関口の方が騒がしくなった。
何かが壊れるような音と、女中たちの悲鳴が屋敷に木霊し、その事態がただ事でないと三人は気づく。
「塚紗たちが帰ってきた訳じゃなさそうだな」
様子を見てくる。斉藤はそう言い残すと十六夜と朝吉を置いて玄関の方へ向かってしまった。
「だ、大丈夫っすよ! 何があったって俺が命に代えても守りますから!」
そう自信満々に言った朝吉。しかし十六夜は無関心な様子で見つめると、ゆっくり口を開いた。
「貴方が? どう見てもただの不良にしか見えませんけど」
「あ……う……た、確かに不良っすけど……その……」
十六夜の言葉に、朝吉の語尾はどんどん小さくなってゆく。
「ナイトでもあるまいし、貴方に命がけで守られる筋合いはありませんわ」
「な、ないと……?」
聞き慣れない単語に朝吉はたじたじ。そんな様子に十六夜は小さくため息をついた。
「あの、塚紗という方が護衛についてくだされば良かったのに」
朝吉はその言葉に口を閉ざし自分の手を見る。その手は微かに震えていた。そんな右手を朝吉は握り締めると勢いよく顔を上げ十六夜を見た。
「俺が……塚紗さんではなく、俺が貴女を守ります!」
突然声を張り上げ朝吉に、十六夜は驚いたように目を見開く。そして口を開こうとしたその時、
「十六夜!」
突然庭から男の声が響いた。
.
最初のコメントを投稿しよう!