第七和:見えるものと見えぬもの

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「俺は……俺は、ただっ……!」 「十六夜! 早くこっちに!」  ただその場に佇み拳を握る朝吉からゆっくりと離れた十六夜は、そのまま吉郎へと歩み寄る。そして吉郎の手を取ろうとした時、 「おっとそこまでだ大根役者」  突然二人の間に声が割り込んだ。 三人は驚いて声のした方を向く。 「全く大したもんだ、幼なじみさんよ」  そこには全てを見透かしたような笑みを浮かべる京次郎と塚紗、柚禾、夜吉、そして先ほど席を外した斉藤が仁王立ちしていた。 「全く、坊ちゃんがよくやるぜ。好きな女口説くのにこーんな回りくどい事するとはよ」 「な、何の事だ!? 何なんだ貴様等は!」  突然現れた京次郎たちに、吉郎は怒鳴りつける。 その為吉郎に伸ばされた十六夜の手は完全に引っ込んでいた。 「どういう、事ですか?」  十六夜は落ち着いた様子で京次郎に問う。京次郎はニヤリと口元を上げると片手を上げた。 するとすぐ脇から、ボロ着を着込んだ男が縄で簀巻きにされた状態で転げ出た。 「この男が、大体吐いてくれたぜ。そいつは、この男を金で雇ってあの文を書かせたんだ。怯えたアンタを、俺が守るだのなんだの言えば乙女はコロっと傾くからな」 「なっ……信じるな十六夜!」  吉郎の顔は段々と赤みを帯びていき、その様子に十六夜の目には涙が浮かぶ。 「まぁ親の指示だろうけどな、全て。十六夜さんの家の金を得るために」 「……くっ」  吉郎は歯を食いしばると懐に手を入れた。そしてそこから出されたのは鉄で出来た一本の短めな筒。 「親父なんか関係ない……俺はお前が好きだ。俺のモノにならないのなら……うわああああ!」 「っ……!」  吉郎はその筒を振り上げると十六夜に一直線に襲いかかった。 「いやぁぁあ!」 .
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