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「……貴方だったのですね、恋文の差出人……」
「……」
朝吉は十六夜から視線を反らし俯く。
「だから、吉郎が乗り込んで来たときにはっきりとは否定しなかったのでしょう?」
「……すんません、俺……駄目なんすよ」
駄目? 十六夜は首を傾げ、朝吉は俯きながら口をゆっくりと開く。
「俺、恋とか今までした事なくて……女なんかって思ってたんです……。でも町で貴女に会った時から頭ん中、貴女の事ばっかりになっちまって……」
「……」
十六夜は黙って朝吉の話を聞く。
「んで、伝えるだけ伝えちまえば少しは楽になるかなって文書いてみたっすけど……、喧嘩ばっかしてたから文章も字もぐちゃぐちゃで、結局塚紗さんに直してもらったりして……俺は駄目駄目なんすよ……でも」
「でも?」
復唱する十六夜。朝吉は歯を食いしばると十六夜をまっすぐに見つめた。
「好きなんです、貴女が。何よりも」
「……ごめん、なさい」
俯き謝る十六夜に、朝吉は自嘲した。
「……そう、すよね……俺――」
「あの時……」
「――え?」
「あの時、あんな事言って」
朝吉は慌てて十六夜を見る。十六夜は真っ直ぐ朝吉を見ていた。
「前言撤回致します。貴方はとても頼りになる殿方ですわ……。私は、もっと貴方の事が知りとうございます」
「それって……!」
顔をタコのように真っ赤にした朝吉は身を乗り出し、そんな朝吉に優しく微笑んだ十六夜も少し頬を赤らめ頷いた。
「――――!」
この日朝吉の明るい叫びが病院中に響いたとか響かなかったとか。
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