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京次郎、蒼、悠助、そして審判として残ったこの塾の男性教師が見守る中、防具をつけていない塚紗と渚は竹刀を構えていた。
「手加減とかしたら承知しないわよ!」
「へいへい」
ため息混じりの塚紗の返事に更に渚の不機嫌さが増した事は言うまでもないだろう。
「一本勝負、始め!」
審判のかけ声によって試合は始まり、まず始めに動いたのは
「たぁ……!」
渚だった。
渚は竹刀を弾くと塚紗の懐に飛び込み横になぎはらう。塚紗は刀を簡単に手放したがすぐさま後ろに下がった。
「勝負ありね」
弾かれた竹刀はそう呟く渚と塚紗の間に転がり、塚紗はちらりとそれを確認する。
「あれ? 竹刀を最後まで持ってる方の勝ちだっけ?」
「むっ!」
塚紗の挑発に口をへの字にする渚。
そして渚は地を蹴って塚紗へと竹刀を振りかぶった。
「たぁ! ……え、いな……!?」
が、しかし次の瞬間竹刀は空を切る。
「勝負有り!」
「え!?」
審判のかけ声に振り向こうとした渚の目に映ったのは自分に向けられた先革と、その奥で不敵な笑みを浮かべる塚紗だった。
「うっ……いつの間に……」
塚紗は小さく肩を竦めると竹刀を下ろし開始線へと戻る。渚はそんな塚紗をしばらく忌々しげに見つめていたが、審判に促され開始線へと戻った。
「ありがとうございました」
「ありがとう……ございました」
小さく頭を下げた渚の手から竹刀が落ちる。
「な、渚……?」
悠助が心配気に声をかけるが渚は、
「っ……!」
悠助を見ることなく道場から走り去っていってしまった。
「渚……」
寂しげに悠助はその名を小さく呟いた。
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