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「原菜塚紗覚悟ー!」
ぱしーーん!
響き渡る竹刀の音。
「おー怖」
怒気混じりの声と笑い混じりの声。
そんな二つの音を、京次郎と悠助は道場の縁側に並んで聞いていた。
「んー今日も元気じゃねぇか渚ちゃん」
「万年元気だアイツは」
ため息混じりの悠助の言葉に、京次郎はクツクツと笑う。
「でも、不思議と塚紗も楽しそうなんだよなぁ。あんな生き生きした姿見るのはこれで三度目か?」
京次郎は自分と初めて出会い、そして喧嘩をした時の事を思いだした。
あの時も、何故だか一人称を戻してしまう程楽しんでいた塚紗。その時の姿が、今渚とのやり取りと少しだけ重なった。
「ま、それはそれとして、何だかんだ寂しいんじゃねぇの? 塚紗に取られて」
「そう思うんなら喧嘩の仕方教えろ」
「喧嘩かよ」
京次郎は悠助をみやる。
「お前ここで剣術習ってたんじゃねぇの?」
「純粋な剣術だけじゃ、戦えねぇ」
決意したように言う悠助に、京次郎は小さく、ふぅん。と呟くと、
「ま、良いけどな別に」
今の状況に退屈さを感じていたのは自分だったと理解した京次郎だった。
「そう言えば、あの蒼って奴は?」
「……いい加減打ち解けろよ、蒼さんに。なんか、人探しで数日空けるってよ」
「ふぅん」
自分から聞いたくせに興味無さげに返事をする悠助の頬を、京次郎は思いきりつねる。
いだだだだ! と、悲鳴が庭に響く。
「……」
しかし、その光景を木の上から静かに覗いている影が一つ。
その事に気づいた者は一人もいなかった。
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