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「塚紗ぁ、そろそろ帰ろうぜ」
塾にて、京次郎が塚紗に声をかけた。
塚紗は自分達の為に設けられた客間の縁側に腰掛け、何かを真剣に読んでいた。
「……」
「塚紗?」
おもむろに立ち上がった塚紗。その手には一枚の文が握られている。
――びりっ!
「塚紗!?」
塚紗は、無言でその紙を引きちぎると、刀の柄に手をかけた。
「やってやるよ……」
「ん……」
薄暗く埃臭い部屋で、渚は目を覚ました。
床に投げ出されたような体勢から体を起こそうとすると後ろ手に縛られている事に気づく。
「……え?」
訳が解らず辺りを見回すと、窓がない為明かりが入らず良く見えないが部屋と廊下の境に木製の格子が嵌められているのは分かった。
「どうして……っ」
頭に残る痛みに、渚は顔をしかめる。
「ほう、気づいたか」
地下牢なのか、部屋中に声が響いた。渚が見ると、格子の向こう側には町中で絡んできた男が。
「な、何の真似? 私なんか誘拐してもお金なんか……」
「金は貰うさ。ただし、アンタからじゃねーけどな」
大人しくしてりゃ殺りはしねぇよ。と、ニヤリと笑い男は去っていった。
残された渚は一人、壁に寄りかかる。
「……誰か……」
小さな呟きは、誰の耳に届くこともなく冷たい空気のなかに溶けていった。
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