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――ぴとん。
――ぴとん。
「……」
外は雨なのか、微かに水が天井から滴っている。
地下牢にその水滴が落ちる音だけが響く。
(こんな時、お兄ちゃんがいたら助けに来てくれるのに……)
隅に寄り膝に顔を埋める渚。
自分がとても幼い頃に失踪した兄の顔を思い浮かべながら、そんなこと有るわけがない。と、自分に言い聞かせる。
そんな時、
――がたんっ。
「っ……!」
牢屋のすぐ近くで物音が響いた。
そちらへと視線を向けると、床に人影が写りゆっくりと近づいてくるのがうかがえた。
「だ、誰……?」
足音も無く近づく影。
「誰なの……?」
少しずつ、少しずつ大きくなっていく。
「……お兄、ちゃん……?」
「渚……? 渚かっ!?」
渚の居場所に気づいたのか、タタタタッと駆け足でその影は牢の前に現れた。
「な……悠助……!?」
そこには蜘蛛の巣やら埃やらを身体中につけた悠助がいた。
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