第八和:心の強さと情[ココロ]の弱さ

18/25
前へ
/208ページ
次へ
 それから塚紗と悠助、そして渚は何も発することなく眈々と暗い町中を木戸邸へと歩んでいた。地面は歩く度にぴちゃぴちゃと音が立ち先程まで雨が降っていたのを感じさせた。雨だった為と早い者なら既に眠っているであろう刻な為とで相まって血を浴びた塚紗を咎めるものはいない。 「……」  渚は悠助と共に塚紗の後に続きながら先程の光景を思い浮かべる。  地下牢の戸が開けられた途端に漂ってくる鉄の臭い。 そしてその正体を見せんが為に直ぐに塚紗によって大きな布を頭から被せられた。誘導してくれているので壁にぶつかるなどのことも無なく、足元は布の隙間から見えていたので躓くことも無かった。 しかし、その隙間から僅かに見える赤い液体とあの男たちのものであろう手や足に、今自分達の周りがどうなっているのかなんて用意に想像出来た。が、それを敢えて布を取り払って見るほどの勇気なんて渚は持ち合わせてはなくて。それは悠助も同じだったのであろう、大人しく塚紗の後に続いていた。 (あの人数相手にたった一人で……この人、本物……)  じっと前を歩く塚紗を見つめ、渚は手を握りしめる。 「二人とも、危険な目な遇わせて悪かった。怖かっただろ」 「「っ……!」」  振り向きながら笑みを浮かべる塚紗。 優しげに微笑む塚紗に悠助と渚は息を飲んだ。 「京次郎には秘密な」  また煩いから。そうはにかむ塚紗。 渚は唇を噛み締めた。 (何で……何でそんな風に笑えんのよ)  呆然としている悠助の隣で塚紗の顔を見ないように俯く渚。困ったように笑みを浮かべた塚紗は再び木戸邸へと足を進めるのだった。 .
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

760人が本棚に入れています
本棚に追加