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「なぁ、今日も塾に行かねぇのか?」
居間でお茶を啜る塚紗に、正面に座っていた京次郎は頬杖をつきながらそう問いた。
渚が拐われ、それを助けた翌日から塚紗は塾に一度も行っていない。そして本日一週間が経とうとしていた。
「あぁ、もう良いんだ」
はぁ……? 京次郎は眉を潜め塚紗を凝視する。
そんな京次郎の視線を気にすることもなく、塚紗は更にお茶を啜ると湯飲みの中を見やる。湯飲みにはまだ半分程お茶が残っており、微かに波紋を作っていた。
(……渚の事はさて置き、気になるのは……)
塚紗は、渚を拐った男たちの頭の最期を思い出していた。
『ひぃっ……!』
頭であろう男は、次々とやられていく仲間を見、今自分が最後になった事に気づくと尻餅をついて塚紗を遠ざけるように手を前で振った。
『た、助けてくれ! お、俺たちゃ頼まれただけなんだよぉ……!』
『……誰に頼まれた』
全身に返り血を浴びた塚紗が刀を構えながら問う。
男は情けなく悲鳴を上げるとベラベラと口を開いた。
『赤髪の男だ! でっけぇ刀を持ってた!』
『……赤髪に、でかい刀……?』
男は更に続ける。
『女みてぇに睫毛が長くて、あぁそうだ! 顔にでっかくこう一直線に傷があった!』
『!』
男は右目より少し下辺りを指でさしてそこから鼻を通り左頬を通り耳の辺りまでなぞった。
そんな男を、塚紗は呆然と見つめる。
『な、ここまで話したんだ、助けてくれるだろ?』
『……』
塚紗は一度目を伏せ、失せろと言わんばかりに男に背を向けた。
が、
『ははっ……甘えな疾風ぇえ!』
男はすぐさま立ち上がると背を向けた塚紗の背に向け手元にあった刀を突き付けた。
背を向けた塚紗は動きを止める。
『くたばれぇぇえ!』
――ざしゅっ……!
『……え?』
次の瞬間、男の首が胴を離れ宙を舞っていた。胴は首があった場所から噴水の様に血を吹き出し崩れる様にその場に倒れ込む。そしてぼちゃりと音と滴を立てて血溜まりの中に頭が沈んだ。その表情は、何が起きたか解らなかったのか呆然としたもので、光りのない眼には血の滴る刀を構えた疾風の姿が写っていた。
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