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桂の自室に布団が一組布かれていた。
「……親父、何でだよ……何で……」
布団の横に座り拳を力の限り握る京次郎。布団の周りには京次郎と塚紗が座っていた。
「……何で生きてんだよ」
「何が言いたいのかな京君」
布団に横たわったままの桂が、頬をひきつらせて京次郎に放った。
「いやだってここは普通涙の別れとかさ、感動を誘う場面じゃね?」
「感動を誘うために実の父を殺さないでもらいたいんだけどね」
親不孝者。と続けた桂。昨晩何者かに襲われ庭で倒れていた所を塚紗と京次郎に発見されたのだが、出血は多少多かったものの傷自体はそんなに深い訳ではなかった。医者の話だとここ最近急に忙しくなったために疲れが貯まっていたのと相まってただ単に気絶していただけだったとの事。
「あの幕末を生き抜いたんだ、これくらいじゃぁ死なないよ」
体を休める良い口実が出来た。と、やんわりと微笑む桂に、京次郎も小さく笑みをこぼした。
「じゃ、俺なんか軽く食えるもん持ってくるから」
そう言って部屋を後にした京次郎。
部屋には塚紗と桂だけが残された。
そしてそれを待っていたかのようにずっと神妙な面持ちで桂を見つめていた塚紗がぽつりと口を開く。
「……なぁ、桂」
うん? 変わらない面持ちで返事を返した桂。塚紗も変わらぬ表情のまま言葉を繋げた。
「……アンタを襲ったのは……」
そこで区切った塚紗。桂はゆっくりと瞼を閉じ、
「うん、彼だった」
「っ……」
桂の返答に塚紗は唇を一文字に結ぶ。
「悪い、昨晩アイツの情報が入ったんだ。まさか真っ先にアンタを狙ってくるとは思わなかった……」
桂は塚紗の言葉に、そうだろうね。と言うとクスリと笑った。
「彼、明らかに強くなっているよ」
「だろうな」
自分が斬られたにも関わらず薄笑いを浮かべている桂。
この状況を楽しんでいるようにも取れた。
「今の状態の君に、彼が倒せるかな」
「どういう意味だ」
桂の言葉に眉を寄せる塚紗。
桂の顔からはいつの間にか先ほどの笑みが消えていた。
「気づいていないとでも思っていたのかい。私の目は、未だ衰えてはいないよ」
「……!」
塚紗は一度目を見開くと反抗することなく桂から視線を逸らした。
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