序章

2/2
前へ
/13ページ
次へ
この冬が終われば,また暖かな春がくる。 雪国では当たり前のこの寒さも,今年はなんだか,例年より厳しい気がする。 貴方がいない。 ただそれだけなのに……。 人が一人いないだけで,こんなにも景色が違うものだろうか。 六〇億もの人の中で,ただ一人がいない。 それがこんなにも自分の生活を変えてしまうものなのか。 ずいぶん長い時を生きてきて,初めて感じた,この喪失感。 ”失う”という言葉の意味を,たぶん自分は初めて知ったのだと,いまさら思う。 貴方がいない。 そんな毎日が,幾月余り……。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加