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「あんたが書いたその本、てんで売れねぇよ」
「はっはっは!マスター、私はそれが売れると思って書いた訳ではないんだよ」
「では、何のために?」
「さあな……」
と言って十冊の本の前に立ってみる。
私に創られた十人の主人公たちは、本の中で何を思うのだろう。
本を手にしようとした時だった。
店の扉が開いた。それは非常に珍しい事だったので、私は思わずそちらを振り向いた。
「いらっしゃい」
私は初めてマスターの「いらっしゃい」を聞いた気がする。
店内に現れたのは、ごく普通の女子高生だった。
しかし、その顔を見て、私は言葉を失った。
彼女は無言のまま、私に近付いてきた。
いや、私にではなく、書棚に並べられた十冊の本に向かって……。
彼女は立ち止まり、一冊の本を手にする。
その横顔が、輪郭が、私が想像し、創り上げた、十巻の主人公そのものだった。
そう、あのリリィにそっくりだったのだ。
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