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ここのウサギは肉を食う。
私の通う、とある私立の女子中学校。檻に囲まれた小さな園で捕食者に狙われる不安も無く、毎朝毎夕餌を水を与えられ、可愛がられ、そうやって生きているウサギ達。
彼等が草食というのは、実は嘘だ。白色の体毛を持つウサギの、血脈が透けて見えるため赤に染まった瞳。その両目のように、真っ赤な嘘だ。
クラスメイトが与えた昼食の残りのサンドイッチ。その中からはみ出たハムを、愛らしく口元を動かしながら咀嚼するウサギ達を初めて見た時、ぞっとした。
若干萎びたキュウリでもなく小麦の一部のパンでもなく、ウサギは肉を食う。
自分より数十倍大きな豚の体。加工されたその一部を小さな毛玉たちは何の疑問を持つ風でもなく、美味しそうに食べている。
酷く、裏切られたような気分になった。
「いっぱい食べて大きくなるんだぞ」
「このブチの子が一番可愛いよね~」
飼育委員のクラスメイト達は無邪気にウサギと戯れている。彼女達が何の疑問も無く、ハムを食らうウサギを見ていることもまた、驚愕だった。
「……ウサギって、ハム食べるんだね」
思わず呟くと、しゃがみながらウサギの身体を撫でていた一人が首を傾げる。
「え、普通食べるっしょ?小学校じゃシチューとかも残さず食べてたよ?根菜も米も肉も」
さも当たり前というように彼女が笑いながら、言う。
「うん、そっか」
奥歯に物が挟まったかのような、曖昧な相槌しか返せなかった。
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