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「よしっ、さっさと掃除して帰ろうか!」
リーダー格の子がそう声を張り上げ、各々餌や水を補充したり、檻の中を掃き清めたりする。
私も作業に加わる。ウサギの糞をちりとりに集めつつ、この丸い黒粒にはきっと肉だった物も含まれるのだろうなと考えていた。
そういえば、聞いたことがあった。
学校で給食の残飯等を与えられるウサギは、雑食になる。
与えられる物をそのまま咀嚼し、摂取し。草食動物という自らを忘れてしまうのかあるいは順応させるのか、雑食に近い動物へと変化していく。
根菜も米も肉も食べるウサギ。
それは果たしてウサギなのか。
私が飼育委員になったのは、単に志望していた図書委員の椅子が手に入らなかっただけ。ジャンケンに負けてしまったのだ。
それで、今ま経験の無かった動物の世話をするという日々が始まった。
私が知っていたウサギは、人参が好きでキャベツ畑で度々悪戯をして。絵本のピーターラビットのような可愛い物だった。
青い上着のあのウサギは、決してハムなんか食べない。鉄砲で撃たれ、自分が食肉にされるかもしれないという脅威に怯えていたとしてもだ。
ウサギは人参を咥える者。肉を食う者じゃないはず、決してそんな者じゃないはず。
それでも「普通でしょ」という感覚でウサギと接しているクラスメイト。
自分がそういう物体に変化しているという自覚がないまま、肉を食う物になってしまったウサギ。
それってかなり『おかしい』状況じゃないだろうか。
檻の入り口に南京錠を下ろし、掃除用具を片付ける。
用具入れを兼ねた倉庫に向かう飼育委員メインバーの最後尾を歩きながら、もしかしたら一番『おかしい』のは私なんだろうか、とも思えて来た。
更に思考は負に傾き、ぐるぐると落下方向の螺旋を描く。
こんなことで一々悩むのは、おかしいんだろうか。
たかがウサギ。ただそれだけの話なのに!
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