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三月初頭。 季節の変わり目は天気がぐずつく。今日も空全体を薄く雲が覆っていた。 終業のベルが鳴り、ベランダから見えるグラウンドに体育会系の部活の子達が集まりだし、ストレッチやランニングを始めている。 教室には今週の掃除当番だけが残っていた。机の上に椅子を上げ、教室の隅に押しやる。現れた引き潮の干潟のような場所に、モップが走る。 公立の受験は終わったが、まだ私立高校の入試は残っている。 大多数の級友達は最後の追い込みに余念が無く、放課後も忙しい。深夜近くまで塾や自宅で勉学に励んでいる。 私は随分前に公立校への推薦入学がめでたく決定し焦る必要性が全く無く、お陰で慌しい周囲に若干馴染めずにいた。 左右の手に持った黒板消しを、拍手をするような要領で叩く。 白墨の粉が舞い、暖かくなり始めた風に乗って教室のベランダから外へと飛んでいく。 風と共に漂う、白い粒子。なんだか雪を連想する。暖冬とやらのせいか、結局今年も雪を降らせないままで冬は通り過ぎて行きそうだ。 「素子、お客さんだよ!」 ガラリとベランダと教室を隔てる窓を開け、友人の雛美が顎先で廊下側を指した。 「お客さん?」 首を傾げながら、最後に一度だけ黒板消しを強く叩き教室に戻る。雛美は眉を潜めながら、小さく私の傍で囁いた。 「なんか、おっかない物持ってきてる。一年生らしいけど」 「……ああ、なるほど」 『おっかない物』で直にそれが何であるか、察しが付いた。
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